第一章      -Body-

トラックは、歩道(ほどう)を走ってはいけない。

なぜなら歩道を(ある)いている人が死ぬからだ。

浩一はいつもおれの左側を歩く。自分の右手をおれの近くに置きたいと言う。おれは歩く位置なんかどうでもいいから好きにさせている。

毎朝の通学路は、高校の通用門・・・・・・通称裏門に続く道路だ。

正門は七時半にならないと開かない。バスケ部の朝練がある浩一は七時十五分に学校に着いている必要があるから、開門を待っていては間に合わない。裏門は七時には施錠(せじょう)が解かれるし、仮に鍵が掛かったままでもちょっとしたコツで開けられる。

 

おれは部活があるわけでもないのに、その登校(とうこう)時間につきあっている。

人通りのほんどない早朝、おれなちは狭い裏通りを歩く。狭いと言っても一応は二車線(にしゃせん)道路だ。高速道路入り口の抜け道にもなっていて、事情通の車は結構走っている。だが、実際(じっさい)車はすれ違うのはかなりきつい。小型車ならともかく、ちょっとしたワゴン同士だと、片方は一度停車しないと擦りそうな道幅(みちはば)だ。

 

学校側は広い歩道の確保された安全なバス通りで通学(つうがく)するよう、生徒に指導している。だがこの時間に正門は開いていないのだから仕方ない。

左側(ひだりがわ)に立つ浩一は、車道側を歩くことになる。古いガードレールがあるにはあるが、どうやらは段差(だんさ)すらない。すぐ横を車が走り抜け、その風圧(ふうあつ)で上着の(すそ)が揺れるくらいだ。

雪の残る二月始めの朝だった。

あっという間の出来事(できごと)だった。

浩一は、突っ込んできた2トントラックの体当たりをもろに食らった。バスケ部ではセンターを(かす)めて、薄い雪のヴェールを被ったアスファルトの落ちた。

とても静かな冬の朝。

昨日からの雪はもうやんでいたが、街はいつもよりだいぶ白く、少しばかり幻想的ともいえる。おれのての中には、さっき浩一がくれたばかりのコッカイロがある。

――ミツちゃんは、すぐ手が冷める癖に手袋しないもんな

そう言って微笑みながら、渡してくれた。

おれの名前は青海満だが、ミっちゃんと呼びのは浩一だけだ。他のクラスメイトがふざけて真似ても返事もしてやらない。もともとおれには愛想などない。顔つきもきつくて無表情だ。

 

(ととの)っていることか描いたようだとか、そんなふうにいわれもするが、(した)しみが欠如(けつじょ)していることは間違(かんちが)いない。下がり気味の目尻(めじり)で、いつもにこにこしている浩一とはえれい違いだ。性格(せいかく)もいたって(おだ)やかな浩一が(こえ)(あら)げるのは、バスケの試合のときくらいである。

――えっ、ミッちゃんは可愛いぞ?

なのに奴は、時々変なことを言うのだ。

――こないだ体育(たいいく)のとき、ただランニングしてるだけなのに(ころ)びそうになっただろ。あんときとか、死ぬほどかわいかったよ?

おれは死ぬほどきつかった。浩一のような体力は持ち合わせていない。

「・・・・・・浩一」

交通事故なんか、テレビでしか見たことがない。

浩一の身体が横向きに投げ出されている。頭部から血が浸みだして、雪を溶かしていく。おれの脚はなかなか動かない。やっと一歩を踏み出すと、スニーカーがまだ誰も触れていない雪を噛みしめてキョッと鳴く。

その直後、エンジンの音が聞こえてきた。トラックが動き出したのだ。逃げるつもりらしい。おれは運転席を見る。若い男だった。二十代だと思う。顔色まではわからなかったが、バニクっているのは明白だ。